『教誨』 〜柚月裕子〜 (小学館)

書評

「憤り」と「哀しみ」それが読後の素直な感想です。
何とも言い難い、やり切れない話。
あの事件がモチーフなのかな?と思うお話です。

寒くて閉塞的な田舎のドロリとした人間関係とか、絶妙に描かれています。
息苦しくなる場面が多々あるのですが、ページをめくる手は止まらず、あっという間に読了。
読むのが遅い私ですが、それでも3時間ちょっとで読めました。会話が多いからでしょうか。

途中、腹立たしい気持ちも抱きました。
そんな中でも、スナックのママさんと最後の方に登場する青木さんという女性が救いというか。
主人公と交わすセリフや描写が印象的でした。

帯に書かれていた各コメントは、あまり共感出来ず。
確かにすごい作品ではあるけれども、コメントと内容が合っていないような印象です。
正直、私は違和感を抱いています。

ただ、柚月さんの文章は、とても魅力的でグイグイ読ませます。
「パレートの誤算」も素晴らしかったです。世の不条理をテーマにしてる点はブレてないし、凄い。

だけど、やっぱり腹立たしい。
スナックのママさんのセリフが救いというか印象的。
もう少し時間が経てば、この腹の底のモヤモヤを整理できるのかな。

少し前に読んだ河崎明子さんの『絞め殺しの樹』も、かなり重く読み応えのある作品でした。
今回の『教誨』は、あちらとまた違う「重さ」や「暗さ」があります。

エンタメ的な要素や派手さは無い作品ですが、映像化されたり、話題作になったりする予感がします。

そういえば、柚月裕子さんは、永山則夫にも関心を持たれていたみたいですね。
確かに今回の『教誨』を読んでいて、その点はなんとなく感じました。
欲をいえば、もう少し世の矛盾や不条理に対する怒りや憤りを表現する場面があっても良かったのかも?と思います。

物語に出てくる死刑囚は、色々諦めてしまっていましたから。
諦めざるを得ない境遇だったとは思いますが、もう少し…という、いち読者の戯言です。
子殺し、死ぬまで守った約束についても、同情や共感はできませんでした。
なんだか、モヤッとしたまま。
何より、そこまでして帰りたい地元、親元なのか?という気持ちが私は強くて。

タイトルとURLをコピーしました